わたしは、むかし 臨床心理士として仕事をしていました。
そのときの話です。
女性支援の窓口に、10代半ばの女性二人がやってきました。
彼女たちは、買い物帰りに立ち寄ったという気軽な感じでした。
けれども、相談内容は気軽なものではありませんでした。
お腹に赤ちゃん。
妊娠チェッカーで調べたそうで、病院には行っていない。
彼に話したら、音信不通になってしまった。
赤ちゃんはかわいいだろうし、産みたい。
「母子手帳をどこでもらったらいいかわからないから聞きにきた」と話していました。
もう少し事情を聞くと、彼女は自分の親とはうまくいっておらず(虐待が疑われる)、友達や知り合った人の家を転々としているとのこと。
妊娠のことはとても親には話せない、言わないでほしいとのことでした。
対応した相談員は
「赤ちゃんを産んで育てるって素敵なことよ。でも、とても大変なことなの。相談に来てくれてありがとう」
と話しました。
赤ちゃんのことだけでなく、生活の支援から必要な状況でした。
少女が、不安定な暮らしのなかで予期せぬ妊娠をして、男性に逃げられ、頼れる親もいないことに、悲しく切ない気持ちになりました。
スタッフのなかで「決して非難せずに、寄り添っていこう」と、確認し合いました。
そんなとき、あるスタッフの家庭で、似たようなことが起こりました。
息子さんは、先生とのトラブルで高校を一年で中退。
あちこちアルバイトをするも続かず。
そのなかで、付き合っていた子の妊娠がわかりました。
彼女のほうは、もともと親とうまくいっておらず、妊娠がわかって家を追い出されてしまいました。
若い二人は結婚して子を育てようと決意しました。
妊娠がわかって、彼はアルバイトにまじめに通うようになりました。
ですが、2人とも経済力も生活力もない子どもです。17歳なので婚姻もできません。
そこで、彼のお母さん(相談所のスタッフ)は、彼女を家に住まわせて、若い夫婦と生まれてくる赤ちゃんを支えることにしたのでした。
「子どもがもう1人増えたということね。そこに赤ちゃんもついてくる。大変だけど、頑張って支えてあげたいの」「ほかにどうしようもないしね」と彼女は笑っていました。
わたしは、その決意に、心を打たれました。
わたしが親だったら、そこまで引き受けてやっていけるだろうか。
彼女の決意を、心から尊敬しました。
ところが。
他のスタッフが彼女に向ける視線は、とても冷ややかなものでした。
「そもそも、息子さん、中退してフラフラしてたわけでしょ?」
「それなのに、赤ちゃんができちゃうなんて」
「どうするのかしら、一体」
「3人引き取る(赤ちゃんも含めて)なんて、よくやるわよね」
あなた、さっきまで、相談室で若いお母さんに寄り添って「大丈夫よ」と言ってなかったっけ?
若いお母さんを助けようとしない親に、怒りすら覚えるって話してなかったっけ?
いざ身内となると、こんなふうに、口さがないことを言うのか。
たしかに、これからの道のりは苦労が多いでしょう。
子どもがつらい思いをすることもあるかもしれません。
そういうケースも少なくないことは事実です。
支援職だからこそ、これからどんなに大変かがわかる。
だから、非難する。
仕事上では支援する。
それは仕事だから。
でも、本音では、受け入れられず、忌み嫌う。
とてもショックを受けました。
フリーランスで仕事をしていたので、複数の職場を経験しましたが、どの職場に行っても似たようなことがありました。
発達支援の相談所で、発達特性のあるスタッフへのいじめもありました。
誰にでも矛盾はあります。首尾一貫した人なんていません。
自分の中の矛盾に自覚的であるかが、大切なのだと思います。
支援職であってもそうでなくても、同じことでしょうね。
あの窓口にきた少女も
スタッフとその息子さんたちも
みんな幸せにやっていてほしいなあと思います。
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