ぴあけあら

双極症当事者(ピア)で、統合失調症の当事者家族(ケアラー)。日々の記録です。

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当事者家族になって占い師さんと仲良くなりかけた話 その2

 

前回のつづきです。

 

家族がどん底だったとき。

知人に「いい占い師がいる」と聞き、

裏さびれた小道の先の喫茶店に出かけていきました。

 

何度も通いましたが、まだ占い師さんには会えません。

 

 

ついに、運命の出会いが訪れました。

 

↓ これまでの経緯です。

peer-carer.hatenablog.com

 

 

 

五回目のはじまり

 

5回目ともなれば、慣れたものです。

マスターの「いらっしゃいませ」の声を聞きながら、一瞬で店内を見まわしました。

 

 

いない。

 

今日もダメか…

いない

 

 

しょうがない。

今日こそは、わたしの目的をオーナーに話そう。

 

 

『ここで占って下さる方がいると聞いて、隣の市から来ました』

『奥さまにぜひお会いしたいのです』

 

 

「実は、あなたの自慢のコーヒーを飲みに来ているわけではない」と白状するのですから、マスターの気持ちを思うとうしろめたさを感じていました。

 

 

ですが、もうこれ以上は待てません。

 

マスター、違うんです…

 

 

コーヒーを持ってきてくれたときがタイミング、とマスターを待ちました。

 

 

「お待たせしました」

 

わたし「ありがとうございます。あのですね…」

 

 

そのとき

 

カランコロンと店のドアが開きました。

 

 

 

お客

 

 

マスターは「すみませんね」とドアのほうに行ってしまいました。

 

 

う、間が悪い。

 

 

しょうがない。

 

あのお客の接客が終わるまで待とう。

 

 

40代前半でしょうか。きちんとなでつけた髪とシルバーのフレームの眼鏡。

こんなに暑いなか、濃紺のスーツに、青地のネクタイをきっちりと締めていました。

横長の大きな発泡スチロールを持ちにくそうに抱え、指先には紙袋が下がっていました。

 

 

いかにも、なサラリーマン。

 

大手の企業のひとっぽい、余裕を感じます。



 

 

 

彼は、小柄なマスターの目線に合わせ、少し頭を下げるようにしながら何事かを話し始めました。

緊張した神妙な面持ちです。

 

 

 

誰?

 

 

マスターは席をすすめようとせず、そのまま話し始めました。

 

 

わたしの席からは離れていて、ふたりの会話ははっきりと聞き取れません。

しかも、あいだには、観葉植物。

のぞくのもばつが悪いので、顔はあらぬ方向を向けつつも、聞き耳はしっかり立てていました。

 

 

お客じゃないんだろうな。

 

 

だれだろう。コーヒーの業者かな。

 

 

 

ふいに、大きな声。

 

 

「こまるんだよねえ!」

 

 

マスターとは思えない厳しい声でした。

 

 

「ほんとうに憤慨していますよ!」

 

「どういうことなのよ」

 

 

 

マスターは一段と声を上げました。

 

 

「だいたいね、鮭がね」

 

 

 

ん?

 

 

 

鮭??

 

 

 

場違いな単語が聞こえた気がして、思わず顔を上げました。

 



 

 

 

 

マスター「だってさ、北海道でしょ?北海道物産展ですよ?」

 

 

サラリーマン「はい…」

 

 

「北海道物産展っていうのは、北海道のものを売るわけじゃない?」

 

「家内と楽しみにしていたんだよ。北海道なんてさ、めったにいけないしさ、楽しみじゃない」

 

 

 

「まさか、鮭がチリ産なんて思いもしないじゃない」

 

 

鮭がチリ産

 

「家に帰ってきて、開けてみたら『チリ産』って書いてあるじゃない?驚いたよ。どういうことなの?」

「北海道だっていうんだからさ、みんな北海道産じゃないとおかしいじゃない?」

 

 

サラリーマンは平身低頭。

 

「ええ」「はい」「ごもっともでございます」を繰り返していました。

 

とりあえず言いたいことを吐き出したのか、マスターは息をつきました。

 

 

 

「あの…よろしければ、こちらを」

 

 

サラリーマンは近くのテーブルに置かれていた、発泡スチロールの箱のふたをおずおずと開けました。

 



 

マスターは伸び上がるようにしました。

 

 

「これは北海道産?」

 

「そうでございます」

 

「いいの?」

 

「はい。ぜひ」

 

マスターの声は少し和らぎました。

 

 

「じゃあさ、買った鮭を返すよ。悪いしさ」

 

そして、マスターは店の奥に向かって

 

「おーい、鮭」

 

と声を上げました。

 

 

「いえ。あの、それは結構でございます」

 

 

ふたりが、返す返さなくていいと押し問答をしているあいだに、いよいよ奥さんが登場しました。

 

 

 

奥さんの登場

 

 

「はーい」

 

奥から出てきたのは、背の小さいやせぎすの初老の女性でした。

 

 

黒い短い髪はざんばら、化粧っけはまったくありません。

 

やせ細った首にくたびれた黒Tシャツ。

 

両方の鎖骨がのぞいています。

 

特徴のないグレーのズボンをはいていました。



えっ?

 

 

この人が奥さん?

 

 

この人が占い師?

 

 

本当に??

 

 

なんというか、あまりにも

 

 

 

普通。

 

こうじゃなかった

 

 

普通を通り過ぎて、

 

 

なんというか…

 

 

みすぼらしい

 

な、なんか…

 

 

思考は完全フリーズしました。

 

 

 

マスターは、奥さんが持ってきたトレーを男性に渡して、

 

 

「あなたも責任者で大変だと思うけどさ。天下の○オンなんだから、がんばってよ」

 

 

トレーだから、たぶん切り身

 

 

 

チリ産の鮭で 〇オンの偉い人を家まで呼びつけたわけか。

 

 

 

男性は「ご迷惑をおかけしました」と頭を下げながら店を出ていきました。



 

 

つかまった

 

 

 

わたしは席をたちました。

マスターはすっかり柔和な顔に戻って「もうお帰りですか?」

 

さっきまでのことは、まるでなかったかのようです。

 

 

余計な会話をしたくない。

 

わたしは顔をうつむけたまま、1000円札を出しました。

 

すると、マスター

 

「あ、そういえば」

 

びく

 

「お客さん、確かうちのに用があったんでしたよね?」

 

「あ…いえ、あの、その」

 

「おーーい!」

 

「いえ、もういいんで」

 

す、を言いおわる前に、「はい?」と奥さんが目の前に来てしまいました。

 

 

 

 

奥さんと…

 

 

「はい、なんでしょう」

 

さっきの痩せた女性が、私に尋ねました。

 

「いえ、あのう」

 

口ごもるわたしに、マスターはやけに優しく、

「どうぞ、あちらに」

と、窓際のテーブル席に案内しました。

 

 

気がつくと、奥さんと向かい合ってテーブル席に座っていました。

西日が眩しく差し込みます。

マスターが持ってきてくれた水は、いつのまにか氷が熔けて、机がビチョビチョになっていました。

 

強い西日と、緊張と

 

正面に向かい合って初めて気づいたのですが、奥さんはひどい斜視でした。

 

両目とも瞳が完全に目尻側になっているので、目が合いません。

 

あまりジロジロ見るのもよくないと思い、わたしの視線は自然と下に向かいました。

奥さんの着ている黒いTシャツには、白い埃がいくつもついていました。

 

 

店の外の祠。

 

今日の鮭。

 

目が合わない奥さん。

 

Tシャツの埃。

 

 

頭にぼんやりと霞がかかっていきました。

 

 

 

占い

 

 

聞かれるがままに、我が家の状態を話しました。

奥さんは 言葉は挟まずに、うんうん と聞いていました。

 

そしてひとこと

 

「大変だったのね…」

 

 

そして一家全員の生年月日、出生地と出生時間、名前も聞いてきました。

 

 

奥さんは、それらを、鉛筆で、レジ横から持ってきたメモ用紙に書いていきました。

 

メモ用紙というのは、裏の白いチラシを切って、黒い大きなクリップで止めたアレです。

 

こういうの

 

 

奥さんは、難しい顔で何やら計算のようなことをしていました。

 

それをじっと見ながら

 

「うん」

 

と、大きくうなずきました。

 

 

「この子は問題ないわよ。大丈夫。すぐ元気になれます」

 

 

わたしは、ほっと胸をなでおろしました。

 

 

そこで奥さんは、少し間を空けて、今度は、わたしのほうに顔を向けました。

 

 

「問題なのは、あなた よ」

 

とゆっくり言いました。

 

 

ひるんだわたしに、親族のことをいろいろ尋ねてきました。

 

 

父、母、叔父、叔母、いとこ。

 

最後に、わたしは「父方の祖父がどうも自死しているらしい」ということを話しました。

 

 

奥さんは急に目を見開きました。

 

 

「それよ!」

 

 

気のせいか、奥さんの顔は輝いていました。

 

 

「ちゃんと供養してあげてないんじゃない?」

「お墓参りに行ってる?」

 

と矢継ぎ早に聞いてきました。

 

わたしは奥さんの勢いに押されて

 

「ええと…。はあ、行ってないです…」



祖父はメンタルの病気があったという話でした。

半世紀以上前の話で、偏見も強い地域だったらしく、祖父のことは一族のタブーにされていました。

そういうわけで、祖父は本家のお墓に入っていませんでした。

 

 

わたしがそう答えると

 

 

「なんてこと…。おじいちゃんのお墓を探して今すぐ供養しないと」

 

 

「ですが、お墓がどこにあるのか…」

 

「親戚中に頭を下げてでも、聞き出しましょう。ツテをあたって」

 

「…」

 

「ね、探してきなさい」

 

 

「あなた、今までとても苦労してきたわ。大変だったわよね」

 

 

「もうわたしは決めた。あなたが幸せになるまで、とことん付き合う」

 

 

わたしが正しい供養の仕方を教えてあげるから」

 

 

 

祠と

 

たくさんの小さい人形と

周囲のボンボン飾りと

 

頭の中の霧が一瞬で晴れて、意識がクリアになりました。

 

 

笑顔のふたりに手を振られながら、わたしは店の外に出ました。

 

 

薄暮の中に、崩れかけた祠が浮かんでいました。

 



 

宴のあと

 

 

あれは、なにかの信仰だったのだろうと思います。

 

祠の装飾が、奥さんのいう供養だったとしたら、

 

わたしは、祖父のお墓に人形とボンボン飾りを飾ったのでしょうか…。



ボンボン教の教祖(仮)と バリスタのクレーマー、という夫婦。

 

 

ああいう方々に、このさき、出会う機会がないことを願っています。



 

 

弱っているひとの弱いところへ

 

 

奥さんの誘い方は、とても模範的でした。まるで教科書みたい。

 

あのとき、突然目が覚めたような瞬間がなかったら、どうなっていたのでしょうか。

 

奥さんのとったやり方は、

 

 

弱っている人自身の、思いもしない弱いところを突いて、不安を抱かせる方法

 

です。

 

 

奥さんは、苦しみの原因を、わたしの亡き祖父にもっていきました。

わたしにとっては意外な盲点、巧妙でした。

 

 

 

なんて。

 

今だからこそ、偉そうに言ってますが…

 

 

実は わたし、次の日にお墓参りに行きました。車で往復6時間かけて。

 

 

場所がわからないから、祖父のお墓には行きませんでしたけれど。

 

違う、と頭ではわかっていました。ですが、

 

 

不安になってしまったのです。

 

 

子どもが苦しんでいるというのに、何をしてるんでしょうかね、まったく。

 

 

まあ気晴らしにはなりました

 

あの後、ボンボン教には入っていませんが、子どももわたしも元気にやってます。

 

 



 

当事者、当事者家族で、似たような出来事にあって、気持ちが楽になられた方もいます。

 

ですので、一概に悪いとは言えません。

 

 

いつか、勧誘や洗脳について、心理学から考察した記事を書こうと思います。

 

 

よろしければ、またおつきあいください。

読んでいただき、ありがとうございました。